真言宗とは空海(弘法大師)を開祖とする仏教の宗派のひとつです。「即身成仏」を説いたもので平安時代から現代まで1200年以上続いています。
今回の記事では、真言宗についてご紹介致します。
真言宗とは
真言宗は平安時代初期に中国に渡り密教を学んだ弘法大師空海が開祖となり、日本に教えを広めた仏教の宗派の一つです。密教とは言葉によって仏教の教えが広く分かりやすく公開される顕教とは逆に、秘密として扱われている教義や儀礼が師から弟子へ口伝によって伝授されている宗教で神秘主義を内包しています。最澄が開祖の天台宗が大密と呼ばれるのに対し、真言宗は東密と呼ばれ、宇宙そのものであり万物全てに存在するとされる大日如来が本尊としてまつられています。弘法大師空海は、人間が生まれもった姿のまま悟りの境地に達し、宇宙の真理を究めて大日如来と一体化することで生きながらにして仏の道を開くことができる、すなわち即身成仏が可能であると説き真言密教を大成させました。その教えは多くの弟子へと受け継がれ、多数の宗派へと分かれていきながら、今現代に至っています。
真言宗の主な宗派は16派あり、その総大本山が18ある為に真言宗十八本山と呼ばれています。真言宗を大きく分けると「古義真言宗・新義真言宗・真言律宗」の3つになります。古義真言宗は弘法大師空海が開いた当初の教えを重視する宗派で16派のうち12派が属しています。弘法大師空海自らが修行の場とした金剛峰寺(和歌山県)を総本山とする高野山真言宗や大本山が大覚寺(京都府)である真言宗大覚寺派、唯一四国に存在する善通寺(香川)を総本山とした真言宗善通寺派などは古義真言宗に含まれます。古義真言宗に対し、宗派の再生を図ったことによって高野山を追われた覚鑁を始祖とし、その流れを汲む宗派を新義真言宗と言います。金剛峰寺側の僧侶と対立した覚鑁は根来に移り、その由縁から根来寺(和歌山県)が総本山となりました。また戦国時代を経て、焼き討ちされた根来寺から逃れた僧侶によって長谷寺(奈良県)や智積院(京都府)にもその教えが伝えられました。現代ではそれぞれの寺が豊山派、智山派の総本山となっています。また仏教の一派である律宗と真言宗が融合した宗派である真言律宗は、鎌倉時代に叡尊が興した宗派で、総本山を西大寺(奈良県)、大本山を宝山寺(奈良県)としています。宗派は分かれてはいますが、同じ真言宗同士ではあるので作法や本山は異なっても大きな違いはないと言われています。
天台宗の教えや特徴
真言宗の教えの基本は「即身成仏」です。これは、仏と同じように行動し心を清く保つことで誰でもすぐに仏になれるという意味です。その為に、前述した密教の修行がとても大切になります。密教の修行には、体の修行である身密・言葉の修行である口密・心の修行である意密の3つがあり、これを合わせて「身口意の三密修行」と呼んでいます。空海が書いた「即身成仏儀」には、六大・四曼・三密の3点から即身成仏に達するための手法が書かれています。六大とは、火や水・風などの物質を表す五大に、精神を意味する識を加えています。四曼とは「大マンダラ・三昧耶マンダラ・法マンダラ・羯磨マンダラ」をさします。マンダラとは、悟りの境地を絵で示したものです。三密とは身口意です。これらが真言宗の重要な骨組みを成しています。真言宗の根本となる仏様は大日如来です。大日如来は全ての徳を備えていて、全ての仏様は大日如来が姿を変えたと考えられています。その為、大抵の場合は仏壇の中央に大日如来を祀っています。その他の特徴についても下記にまとめましたのでご覧ください。
- 読まれる経典
- 「般若理趣経」「大日経」
- 「金剛頂経」「蘇悉地羯羅経」
- 「瑜祇経」「要略念珠経」
- お唱えする念仏
- 高野山真言宗は「南無大師遍照金剛」
- 醍醐派「南無大師遍照金剛、南無聖宝尊師、南無神変大菩薩」
- 御室派「南無大師遍照金剛、南無禅定法皇」
- 智山派「南無大師遍照金剛、南無開山興教大師」
- 豊山派「南無大師遍照金剛、南無興教大師、南無専誉僧正」
「金剛頂経」という大乗仏教が作成した密教経典の中の「理趣広経」を漢訳したものが「理趣経」です。理趣経は「般若理趣経」や「百五十頌般若」とも呼ばれており、般若の名前がつく通り般若経典の一種です。理趣経は1~17の章から構成されており、そもそも人間は汚れた存在ではないという思想が根本にある経典です。本文には、読誦をすることで功徳が得られるという記載があるなど、仏教の経典の中でも他にはない特徴があります。特に有名なのが十七清浄句で、この部分では情交や様々な欲望に対し肯定的な記載がされています。これらは不浄なものではなく、そういった欲望によって人間が間違えた方向に行ってしまうのがいけないことなのだ、誤った道へ行かずに悟りへの道に精進をするべき、という旨の文章があるので単に性を認めた経典ではありません。
- 数珠のかけ方
- 真言宗では数珠を擦り鳴らし音を立てます。
- 最初に両手の中指に数珠をかけ、手のひら側に長い主玉の部分を収めます。
- その時梵天房は左右の中指の付け根辺りから自然に垂らしておきます。
- 焼香のあげ方
- 使用する線香の本数は原則3本です。
- 真言宗の焼香の回数は原則3回と定められています。
- 遺影に向かって香炉の前で一礼した後
- 右手親指、人差し指、中指で焼香をつまみ、
- 額まであげ押し頂いてから横にある香炉にくべます。
- その動作を3回行います。
- ※時間を短縮させる為1回のみとなることもある。
- 真言宗の行事
- 修正会
- 常楽会
- 正御影供
- 仏生会
- 結縁灌頂
- 大師誕生会
- 土砂加持法会
- 仏壇の飾り方
- 高野山真言宗では中央にご本尊である大日如来
- 右に「弘法大師」を
- 左に「不動明王」をまつります。
- 豊山派・智山派では左に興教大師覚鑁
- あるいは不動明王か、観世音菩薩や地蔵菩薩などをまつることが多い。
- 分派が多く地域による違いもあり、飾りかたは様々です。
ご本尊についてはこちらで分かりやすくご紹介しておりますので併せて参考にしてください。
葬儀の特徴
密教である真言宗では灌頂と土砂加持という他の宗派とは違った特徴があります。
- 灌頂
- 灌頂(かんじょう)とは亡くなった方の頭に水を注ぐ儀式のことを指します。元来は仏教発祥の地であるインドで国王が即位する時に行われていた儀式でしたが、仏教にも取り入れられ、灌頂により故人が仏位にあがることができるとされている為に非常に重要な儀式と言えるでしょう。代表的なものとしては、結縁灌頂、受明灌頂、伝法灌頂などの種類があります。また、お墓参りの時に柄杓で墓石に水をかけることも灌頂と呼ばれています。
- 土砂加持
- 土砂加持(どしゃかじ)とは土砂を清めて護摩を焚き、本尊を前に光明真言を唱えることによって土砂に仏の加護を与えることを指します。葬儀の際には故人の身体にかけてから納棺します。これを行うことによって、故人の硬直が解かれ柔軟になり、生前の罪業や苦悩を滅することができると考えられています。また墓にまいても同様の効果があり病気の者に授けると病苦が取り除かれるとも言われています。