般若心経はお経の中でも知名度が高く、多くの方が葬儀などで用いているでしょう。しかし、意味や宗派による違いがわからない・失礼がないようにしたいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の記事では、般若心経と宗派について詳しくお伝え致します。
般若心経とは
般若心経の意味を考えていく上で大切になってくる点は大まかな中身や歴史的な由来でしょう。般若心経は複数の宗派が使っているお経であり262字と短い内容です。「般若波羅蜜多心経」「摩訶般若波羅蜜多心経」という正式名があり、このお経は日本でもっとも知名度が高くよくまとめられていることから仏教系の学校などで生徒が唱える例もあります。短いお経ですが各文には世界や人生に通じる深い意味があり多くの専門家からも研究対象となっているそうです。
般若心経のルーツはインドにあり、インドから経典や仏具が伝わり日本の仏教向けに翻訳した経典として般若心経が成り立ちました。以上からサンスクリット語が原題となります。仏教では教えや経典などでインドをルーツとしたものが複数ありそれらが日本に定着しています。般若心経もインドの宗教に由来した経典と言えます。日本のお経としての般若心経を完成させたのは玄奘三蔵です。5世紀に活躍した中国の僧侶であり西遊記の三蔵法師のモチーフにもなりました。玄奘三蔵は13歳で僧侶になり、26歳にしてインドへ出国します。約16年間インドを旅した末に、日本の仏教のもとになる経典などの仏教道具を持ち帰り、帰国後に翻訳したお経のひとつが般若心経でした。
以下のリンク先の記事内にてより詳しく般若心経についてご紹介していますので併せて参考にしてください。
般若心経と宗派
日本には多くの宗派が存在しており般若心経の扱いも異なります。各宗派は別のお経をメインにしているため、般若心経を唱えない場合もあります。法要で困らないよう自身やその親族がどこの宗派に属しているかを確かめる必要があります。ここでは般若心経と宗派の関係性を踏まえながら各宗派の特徴と般若心経の扱いをお伝え致します。
宗派によって般若心経の扱いは異なるとお伝え致しましたが、具体的には唱える場所や使う頻度で違いがあり宗派によっては全く用いない場合も見られます。 般若心経を扱う宗派であっても、それぞれ解釈が異なる場合もあり、般若心経に対する記載などは多数ありますがそれぞれの内容も違います。それほど般若心経は複雑でありながら奥が深い経典です。
- 浄土宗
- 浄土宗は鎌倉にルーツがある仏教のひとつで「鎮西派・西山派」という二つの宗派に大きくわかれています。歴史的に宗派がわかれる機会が多くそれらをまとめる形で宗教法人浄土宗が生まれました。しかし現在の宗教法人浄土宗には西山派は入っておらず違いが明確になっています。
「南無阿弥陀仏」という念仏を唱え、平穏な毎日や極楽往生を望むことが主な教えです。無量寿経や阿弥陀経などを主に唱えますが祈願や食作法時に般若心経を唱えることもあります。
- 浄土真宗 大谷派
- 東本願寺を本山とするのが浄土真宗の大谷派です。戦国時代に起きた浄土真宗の分裂をきっかけに出来たとされる浄土真宗における宗派です。親鸞の思想をもとに南無阿弥陀仏と唱えることで極楽浄土への導きを望むという教えを行っています。 般若心経を唱えることはありません。また葬儀の言葉にも厳密なルールがあり、たとえば旅路を連想させる言葉はタブーとなり、死者に向けた言葉としてよく使う「草葉の陰」や「三途の川」なども浄土真宗では用いません。
- 浄土真宗 本願寺派
- 浄土真宗の宗派のひとつです。西本願寺に本山があり、臨終後はすぐに極楽浄土へ向かうという考えで葬儀時に末期の水は取らず、故人は北枕に寝かせる様式を取っています。浄土真宗 本願寺派で唱えるお経は浄土三部経であり、般若心経は唱えません。浄土真宗では他力本願という考え方であり自力で成仏を目指す意味合いの般若心経は合わない為です。
- 天台宗
- 天台宗は比叡山延暦寺に総本山をもつ宗派です。こちらでは妙法蓮華経という経典が有名であり、日本のなかでもスタンダードな宗派のひとつです。護摩行という炎の前で何周にもわたりお経を唱える宗派です。天台宗では「すべての人に悟りの世界を与えること」を主な教えとしています。般若心経は主に勤行儀という修行の一環で用います。
- 真言宗
- 真言宗は50の宗派にわかれており高野山真言宗が最大です。こちらは祈りの宗教と呼ぶ声もあり、供養と礼拝を中心に即身成仏の教えを行います。葬儀では僧侶がお清めとして香を塗るなど独自の特徴も見られます。参列者の数珠にも細かい作法があるなど、伝統性を深く重んじた様式がうかがえ、信者の修行で般若心経を唱えるので葬儀でも聞くことになるでしょう。
- 日蓮宗
- 日蓮宗は「南無妙法蓮華経」という漢字7文字によるお題目を唱える修行で有名です。これを何周にもわたり唱え続けることで即身成仏ができるという言い伝えがあります。お釈迦様が伝えた法華経の教えを主としており、ひとりひとりが仏で常に命に感謝しようという思想を含んでいます。お経は法華経からの内容に特化しているため、般若心経は唱えません。
- 臨済宗
- 臨済宗は特定の本尊がなく宗派が細かくわかれています。そのため修行や葬儀のやり方にも細かい部分で違いが現れます。基本的な様式として禅宗を取り入れています。これはひたすら座ることで悟りを得るという教えです。座禅を続けることで身や息、心の調和を図ります。臨済宗では勤行を中心に般若心経を用いる機会があり、葬儀でも唱える機会を迎えるでしょう。
- 曹洞宗
- 曹洞宗は鎌倉時代に広まった宗派です。基本的な様式は禅宗であり、ひたすら座禅を組みます。こうした只管打坐を軸に据えた教えは臨済宗に通じるところもあるでしょう。人間として生まれた時点で「仏心」という仏と同じ心を受けているという道元禅師の思想も有名で、これをもとに日ごろの行いを大切にする教えを行っています。曹洞宗でも勤行に般若心経を唱える機会があります。
その他
よくある質問として般若心経を素人が唱えることはいけないことなのかという質問を頂きます。しかし、般若心経は素人が唱えても問題はなく、ネットの検索ワードによくある「般若心経を唱えると霊が寄ってくる」という言い伝えを気にして心配に思っているという場合が多いです。しかし、般若心経を唱えたからといって霊が寄ってくることの証明はありません。仏教系の学校では生徒が授業や行事の一環で般若心経を唱えることがあります。このように多くの人が親しんでいることもあり般若心経は素人が唱えても問題ないと言えますので安心してください。また、宗派に関係なく般若心経をあげてもいいのかという疑問もよく耳にしますが、基本的に般若心経は誰が唱えても問題ありません。親族が般若心経を扱わない宗派だとしても、唱えたからといってバチが当たるということもないでしょう。ただし葬儀では特定の宗派のやり方に基づくことが多いので僧侶を招いたら宗派のルールに従う必要があります。浄土真宗や日蓮宗などは思想の違いから葬儀などの法要で般若心経を唱えないので注意が必要です。