法事を自宅で営む際には座布団を用意する必要があります。日常的に座布団を使用していない・座布団を使用していても法事で使う座布団についての知識がないという方もいらっしゃるかと思います。
今回の記事では、法事で使用する座布団について詳しくご紹介致します。
仏壇用と来客用の座布団とは
座布団と一括りに言っても、その大きさや種類は多種多様です。葬儀に関するもので言えば、仏壇の前に置く座布団は専用のものが存在し、自宅で法事を営む際には参列者が座るのにふさわしい座布団というものがあります。ここからは、それぞれの座布団についてご紹介致します。
「仏壇用座布団」とは、仏壇に手を合わせる際や僧侶がお経を読む際に使う座布団です。日常的に使用する座布団とは大きさや厚さが異なり、和装や袈裟を身に着けた僧侶が座っても十分な大きさがある他、長い間座っても疲れない厚さがあるのが特徴です。仏壇用座布団という他に「御前座布団」「仏前座布団」といった呼び方もあります。
法事にお招きした参列者が座る座布団は「来客用座布団」として、来客用のものを別途用意するとよいでしょう。来客用座布団は普段使いのものより一回り大きいケースが一般的で、法事の場であることを考慮し「紫・紺・えんじ色」といった落ち着いた色見の和柄のものを選びます。普段使いの座布団で代用するのであれば、そういったカバーをかけると良いでしょう。
先に簡潔に仏壇用座布団と普通の座布団の違いについて触れましたが、ここではより詳しくご紹介致しますので「なぜわざわざ仏壇用座布団を用意するのか」みていきましょう。
仏壇用座布団は仏壇の前に置くための座布団であり、僧侶が長い間座ることを想定して作られているという側面を持ち合わせているため、日常的に使っている座布団や来客用座布団とは特徴が大きく異なります。主な違いは、先にもお伝えした通り大きさと厚さの2つです。普通の座布団は「銘仙判」と呼ばれ、サイズは通常約55cm×59cmとされています。来客用座布団は「八端判」と呼ばれ、59cm×63cmと一回り大きくなります。一方、仏壇用座布団は1辺が60cmから70cmと更に大きいのが一般的な特徴で、僧侶が座る際に袈裟や和装を身に着けた状態で座っても収まるようにとの配慮がなされています。また、正座をした際にはつま先がはみ出ないようにと奥行きが長く作られているのも大きな特徴です。
更に、仏壇用座布団は普段使いの座布団よりも厚めに作られています。僧侶の読経は長時間にわたり行われることもありますので座っていても疲れにくい構造となっており、中に入っている素材も柔らかくて品質の良い綿を使用しています。仏壇用座布団を準備することは先祖への供養の意味だけでなく、お越しいただく僧侶への心遣いも込められているといえるでしょう。
座布団のマナー
仏壇用座布団のデザインや色にはマナーがあります。一般的に使用される色や柄は「色:金襴・緋色・紫色、柄:唐草模様・水連・竜・蜀甲・牡丹・菊」といったようになります。特に、唐草模様は仏教における定番の柄であり宗派による違いもありません。仏壇用座布団選びに迷った場合には唐草模様を選ぶのが無難といえるでしょう。また、カバーに使われる生地は化学繊維が多いですが、高級素材である「絹素材」の場合もあります。化学繊維には独特なつや感がありますが、絹は重みのあるつや感が特徴で肌触りも滑らかなため僧侶に対する配慮や礼儀としても十分なものといえるでしょう。※ほかの繊維と比較して絹はデリケートな素材のため、虫食いやカビなどといったものから予防するお手入れが必要となりますので注意が必要です。
座布団には置き方のマナーも存在します。日常生活で使用する座布団は向きを気にせずに置いても問題ありませんが、仏壇用座布団には正しい置き方があります。仏壇用座布団の4つの辺を見ると袋状で縫い目がない辺があり、仏壇用座布団は縫い目のない辺を前とします。したがって、座布団を仏壇の前に置く際には縫い目のない辺が仏壇側になるように置き、カバーをかけている座布団であればファスナーがある辺が座る方の背中側に来るようにしましょう。また、仏壇用座布団には裏表があり、中央に房が付いているのが表・結び目があるのが裏となりますので、表が上になるように置きましょう。ただし、両面に房がある座布団もありますから、その場合には側面の縫い目を確認し、二枚の布の一方の布に覆いかぶさっているほうが表となります。両面の房に大きな差がある場合には立派な房があるほうが表と考えると良いでしょう。
仏壇用座布団には正式な座り方と立ち方があります。それぞれの手順は以下の通りです。
- 座る手順
- 座布団の位置に移動し、周囲の方々へ一礼する
- 座布団の下座、45度の位置に立つ
- 両膝を座布団の上に乗せる
- 手を握ってつき、片膝ずつ中央に進む
- 体が正面を向くように調節する
- 立つ手順
- 膝をついた状態で、座布団の下座45度の位置につま先を立てて座る
- 下座から足を引き、片膝ずつ座布団から降りる
- 座布団の下座に座って、正面を向く
- 周囲の方に一礼する
- その場に立って、自分の席に戻る
また、座布団の扱いについてもさまざまなマナーが存在します。
まず原則として、座布団に座った状態で挨拶をしてはいけません。軽く頭を下げて会釈をする程度であれば許容される場合もありますが、深々と頭を下げるような挨拶は避けましょう。挨拶をする際は座布団の横もしくは後ろに座り、勧められてから座布団に座ります。
そして座布団の上には足を乗せないのがマナーです。仏壇用座布団の座り方・立ち方と同様に「座る際には膝をついてから移動する・立つときは下座に足を引いて座布団から降りる」といった点を心掛けると、必然的に座布団に足を乗せずに済むようになります。
また、座布団は最初に置かれた位置から変えてはいけません。座布団は招待した方のもてなしの気持ちの表れであるため、招待した方以外が動かすことはマナー違反です。万が一、座る位置からずれていたとしても座布団はずらさないようにしましょう。
来客用の座布団にカバーをかけ、日常的に使用しているといったような場合などには、法事のような正式な場では座布団からカバーは外したほうがよいでしょう。カバーは汚れを防ぐためのものでありお客さまに対しては失礼にあたる恐れがあります。ただし、普段使いの座布団に落ち着いた色や柄のカバーをかけて使用しているなどの理由から法事に適したカバーを付けているのであれば問題ありません。
入手先や保管方法について
座布団は仏具店や布団店で購入可能です。柄や中綿、金額に悩むときは、お店の方に相談しながら選ぶとよいでしょう。なかには「普段使用しない」「保管しておくのも邪魔になる」といった理由で座布団を持っていない・持ちたくない方もいらっしゃるでしょう。そういった場合にはレンタルを利用するのもひとつの方法です。1枚からレンタル可能な業者がほとんどで、仏壇用座布団も借りられます。
座布団の保管方法については、使用後であればすぐにしまわずに干すようにしましょう。湿気を吸った座布団をそのまま押し入れに入れると、シミやカビといった傷みの原因になります。片面2時間を目安に天日干し、日光で色落ちしやすい色味の座布団は陰干しがおすすめです。干す際には吊り下げずに平らに置き、絹といった高価な素材を使用している座布団であればクリーニング店でしっかりとお手入れしてもらうことをおすすめ致します。