葬儀の事を知っていくとエンバーミングという言葉を耳にする機会があるかもしれません。エンバーミングを施したご遺体は見た目が変わらないだけでなく、長期間そのままの姿で変化しません。
今回の記事では、エンバーミングについて詳しくお伝え致します。
エンバーミングの意味
エンバーミングとは「遺体衛生保全」「死体防腐処理」の総称のことを指し、遺体の保存・防腐・殺菌・修復を目的に専門技術者であるエンバーマーが行った遺体に対する特殊な処置のことを言います。エンバーミングでは遺体の消毒・殺菌を行い、遺体の一部を切開して血液などの体液を排出すると共に保全液(防腐剤など)を注入します。また消化器官など体内の残存物除去も行われます。施術はエンゼルケアや湯灌の様に立ち会うことは出来ず、概ね三時間から四時間程度の時間を要します。エンバーミングを行うことで得られる主な利点については、大きく分けて三つあり、ひとつは常温で遺体の長期保存が可能になるのでドライアイスや保冷庫を利用する必要がなくなります。夏場などの暑い時期や亡くなってから葬儀を行うまで長期間空いてしまう場合でも腐敗が進むことがない上に見た目もほとんど変わることなく遺体の保全ができます。また、衛生的な安全を確保することも出来ます。ご遺体はウイルスや雑菌に感染している可能性が有りますが、エンバーミングで感染リスクを回避することが出来ます。(空気感染であれば結核など・飛沫感染であればインフルエンザなど・接触感染であればB型肝炎やC型肝炎の他にHIVやMRSAや敗血症など)これにより家族が故人の身体に安心して触れることが可能になります。最後に、生前の姿に近い状態でのお別れが可能になります。エンバーミングでは遺体修復も行われますので、たとえば闘病生活などで痩せ細ってしまったお顔をふっくらとした様子に再現するなど生前に近い姿に修復することが可能です。修復レベルは状態にもよりますが、事故などでお顔の一部が欠損してしまった場合でも特殊技術を用いて修復がなされます。更にドライアイスなど遺体を冷やすことで生じる凍傷もありません。
エンバーミングが必要な場合
エンバーミングが必要とされるケースには次のような状況や事情があります。日本では火葬の割合が約100%というように殆どが火葬が施行されています。悲しい事ですが現実的なお話をすると人の身体は亡くなった時点から腐敗が始まり、見た目も劣化が進んでいきます。ドライアイスや保冷庫を使用しても全身を完全に凍結してしまう訳ではありませんので、進行は遅くなるものの腐敗は進みます。この為、亡くなってから葬儀を行うまで日にちが長く開いてしまう場合には、腐敗防止・見た目維持を目的としたエンバーミングが利用されます。また、海外で亡くなった遺体を日本へ、反対に日本国内で亡くなった方の遺体を海外に搬送する際にも安全上の理由からドライアイスの使用が出来ませんので、亡くなった方の遺体を保全する為にエンバーミングが行われます。しかし、エンバーミングの利用は遺体を保存するためだけではありません。遺体の保全の他にエンバーミングの大切な役割として遺体の修復があります。長い闘病生活で顔がやせ細ったり、逆に治療の影響で膨張したりしてしまうことがあります。葬儀に参列される親族や友人などが抱いている生前のイメージとはかけ離れてしまっていることも珍しくありません。このような場合に、元気だった頃の姿やより安らかな顔の故人とお別れができるようにという遺族の希望を叶える為、エンバーミングが必要とされることがあります。
エンバーミングの流れ
エンバーミングを依頼する場合にはどのような流れに沿って進んでいくのでしょうか。ここからはエンバーミングの流れをお伝えしていきます。エンバーミング施設では、一般的に「エンバーミング依頼書(同意書)」と「死亡診断書(死体検案書)」の提出が求められます。それらに併せて故人の生前の写真が用意してありますと、顔の修復や死化粧の際にエンバーマーが参考にすることができる為、より遺族の方々が持っている故人のイメージに近い施術が期待できます。エンバーミングを依頼したら自宅など故人を安置している場所からエンバーミング施設に搬送します。施設では、エンバーマーにより身体の状態を確認し身体の表面的な洗浄や消毒が行われた後に、洗髪・洗顔・保湿剤の塗布が行われ、顔や顔の周囲が整えられます。遺族の希望や必要に応じて髭剃りや産毛剃りも行われます。身体の一部が切開され、血液など体液を排出するのに併せて保全液(防腐剤等)が体内に注入されます。身体の状態によって切開する場所が決められ、概ね1㎝から1.5㎝の切開が行われます。保全液は全身を循環し最終的には血液や体液などと保全液を全て置換していきます。これにより体内の清浄や保全を確保します。食道・胃・腸内などの消化器官に残っている食物や呼吸器官の痰などの残置物を吸引・除去したら、体液の排出や保全液の注入の際に切開した箇所を縫合し修復します。再度、身体全体の洗浄が行われます。事故などで顔や身体に損壊している部位がある場合にはここで修復もなされます。修復が完了した後に遺族指定の衣装や宗旨に則った装束を故人に着せます。また着付け後には改めて顔の表情を整え整髪を行います。遺族の希望により死化粧や納棺を行います。死化粧では、亡くなった方専用に作られたプロ仕様の化粧品が使われ、納棺についてはエンバーミング施設では行わずに自宅安置後に葬儀社立ち合いのもとで別途行われる場合もあります。故人をエンバーミング施設から自宅など安置先へ搬送します。以上がエンバーミングの流れです。故人の身体の状態にもよりますが、エンバーミング自体は概ね三時間から四時間かけて行われます。自宅に故人を安置していた場合には、エンバーミング施設までの距離によっても前後するものの、故人が自宅を出発してエンバーミングが完了し再び自宅に戻ってくるまで半日から一日を要することになりますので注意が必要です。
エンバーミングの費用については約15万円から25万円程度が相場となります。ただし、この費用についてはエンバーミングそのものの費用ですから、エンバーミング施設までの搬送料金や業者が用意する衣装や棺代は別途必要になります。また、事故などによる損壊の大きな箇所の修復については、その程度によって特殊技術料や修復に要する特殊用品代として約5万円から10万円程度が加算される場合もありますので事前の確認が必要になります。エンバーミングを行わない場合には、ドライアイスや保冷庫を使用して故人の身体を保全することになりますので、亡くなってから葬儀を行うまで10日以上空いてしまう様な場合にはエンバーミングを行った方が費用的な負担が少なく済む場合が多いようです。費用面から見てもエンバーミングを検討した方が良いケースがありますので、その時の状況に併せて検討してみると良いでしょう。